〜恋愛ハリケーン〜

授業終了のチャイムが鳴り、校内はにわかに放課後特有の開放的な空気へと変わった。
ここ2−Aの教室内も例外ではなく、やはり生徒達のざわめきに包まれている。
そして、そんなざわめきの中彼──月森蓮も、他の生徒達と同じく、相変わらずのポーカーフェイス全開で帰り支度をしていた。
(HRが随分長引いたな・・・普通科校舎よりは練習室に近いから香穂子より先には行けると思うけど・・・)
「月森君!」
思ったよりHRが長引き、香穂子との待ち合わせを気にしてやきもきしながら支度をしていた月森の耳に、聞きなれた声が飛び込んできた。顔を上げ声のしたほうに視線を向けると、、待ち合わせの相手である香穂子が、教室の入り口からひょこっと顔を出していたのだ。
「香穂子・・?どうしたんだ?待ち合わせは練習室だったろう?」
パタパタと駆け寄ってくる香穂子に、驚いたように顔を上げ月森が視線を向ける。その表情は、明らかに普段と違い和らいだものに変わっていた。
学内音楽コンクールを通して知り合った二人は、コンクール終了後正式に付き合い始め、すっかり公認の仲だ。
音楽科内でも有名な音楽一家の天才少年と、それまで音楽とは無縁だったごく普通の少女──本来なら出会うことのなかったであろう二人の恋は、星奏学院に伝わる「ヴァイオリンロマンス」の再来として生徒達の注目を集めている。
実際、香穂子が入ってきたことに気づいた回りの生徒達は、密かに二人へと視線を向けて様子を伺っていた。
そんな注目を浴びているとは露知らず、月森の席までやってきた香穂子は笑顔で月森に話しかける。
「うん、そうなんだけど・・・ちょうど通りかかったらまだ教室に人が結構いたみたいだから、もしまだ月森君が教室にいたならせっかくだし一緒に行こうと思って覗いてみたんだ・・・迷惑だった?」
「いや、そんな事は・・・そうだな、一緒に行こう」
少し不安そうに見上げてくる香穂子に穏やかな口調でそういうと、月森は彼女にだけみせるとっておきの笑みを浮かべた。
『キャ〜〜〜vvv』
周りで様子を見ていた女子生徒の数人が、その笑顔を直視して声にならない悲鳴を上げる。
香穂子の影響でだいぶ変わったとはいえ、彼女の前以外での月森は相変わらずの不機嫌顔でいることが多い。
月森ファンの女子にとって、免疫のない王子スマイルはいささか刺激が強かったようだ。
(・・・月森の満面の笑み・・・・き、貴重だ)
(月森・・・そんな風に笑えたんだな、一応)
(つ・・月森君の笑顔・・・・ステキ〜vv)
(日野さんうらやましすぎる〜〜!!)
様々な思いを抱くクラスメイト達。そんな周りの様子に気づかず、当の本人達はほのぼのと話を続けている。
「そうそう!実はちょっと弾いてみたい曲があって、楽譜持ってきたんだ。」
「弾きたい曲・・・?どんな曲なんだ?」
「え〜っとね・・・・」
手近な机に鞄を置くと、香穂子は楽譜を取り出そうと鞄の中をガサゴソとあさり始めた。と──
「・・・ッ!」
不意に顔をしかめ、楽譜を探していた手を鞄から出す香穂子。どうやら、楽譜の紙が新しかったためか指を切ってしまったらしい。
右手の人差し指から血がにじんでしまっている。
「うう・・・やっちゃった・・・・」
(ヴァイオリニストは指を大事にしろって言われてるのに〜)
内心でため息をつきながら、止血のためハンカチを取り出そうとした香穂子だったが、次の瞬間にその動きがぴたっと止まった。
すばやく香穂子の手をとった月森が、その手を引き寄せるとごく自然に・・・傷口へと唇を押し当てたのだ。
(ええ〜〜〜〜〜〜〜〜!?)
突然の月森の行動に、パニックを起こすか香穂子。確かに、こういう場合とっさに自分で傷口をなめたりするものだが、まさか月森がこんなことをするとは思っていなかった香穂子は、固まってしまいされるがままでいる。
一方の月森は、香穂子とは反対にまったく照れる様子もないようだ。
最後に、まだ少し傷口ににじんでいる血を舌でなめとると、そっと唇を離す。
(つ・・・月森君・・・女の私より色っぽいんですけど〜〜〜)
月森の仕草にクラクラと眩暈を起こしかける香穂子。女としては若干複雑な気分ではあるが、ついつい顔が赤くなってしまう。(ついでに言えば、周りの女子も同様の状態だったりするのだが・・・)
それに気づく様子もなく、月森はポケットからハンカチを取り出し傷口へとあてがった。傷口をしばりとりあえず応急処置をする。
「あ・・ありがとう・・・」
「まったく・・・指を大切にしてくれといっているだろう?・・・この指からしか生まれない音があるのだから・・・」
そういうと、掴んだままの香穂子の手を愛しそうに引き寄せる月森。ただでさえ赤くなっている香穂子の顔が、ますます赤くなった。
そんな二人を、クラスメイト達は
(なんつーこっぱずかしい台詞を・・・しかもさらっと言ってるし)
(日野さん私とかわって〜〜〜〜!!)
(・・・・意外に情熱的だな、月森・・・・)
などと心の中で各々思いながらながめている。クラスメイトの意外な素顔発見・・・というところだろう。
「とにかく、きちんと手当てしないと・・・行こう」
「へ?つ、月森君!?」
キョトンとする香穂子にお構いなしで、月森は香穂子の手を掴んだまスタスタと教室のドアの方へ進んでいく。
「ど、どこに行くの?」
「手当てをするのだから、保健室に決まってるだろう?」
「それもそうか・・・って、荷物置きっぱなしだよ〜!」
月森君てば〜〜・・と制止する香穂子の声を気にとめる様子もなく、香穂子と共に教室を出て行く月森。
さすが月森蓮。どこまでもわが道を進む男である。
(なんか・・・仲良くなれるような気がする・・今のアイツなら)
(ああいう月森君もステキ〜〜)
(結構面白い奴だったんだな、月森・・・・)
後に残されたクラスメイト達の胸に様々な思いを抱かせつつ、嵐は去っていったのだった・・・・


「ごめん・・・少し遅くなっちゃったね」
自分の隣に並んで歩く月森を見上げながら、軽く苦笑する香穂子。
あれから二人は、保健室へ行き大騒ぎしつつ怪我の手当てを済ませ、荷物を取りに一度教室へよってから、ようやく目的の練習室へ向かったのだ。
「まだ十分時間はあるし、練習室もちゃんと押さえてあるからふさがってる心配もないんだ・・・そんなに気にしないでくれ」
むしろ指の怪我の方を気にして欲しい、と付け足された月森の言葉に、香穂子はあはは・・・・とごまかすように笑うしかない。
まぁ、あれだけ「指を大切にしてくれ」といわれてるのに目の前で怪我をしてしまったのだから仕方ないかもしれないが・・・
そんなやり取りをしながら練習室のある練習棟へ入り、予約を入れた練習室へ向かっていると、前を歩く見慣れた長身の後姿が目にとまった。
空きがないか探しているのか、両脇に並んでいるドアを一つずつ確認しているその後姿に、香穂子が声をかける。
「土浦君!」
「ん?ああ・・・香穂か」
声をかけられた相手──土浦は、香穂子に気づいて不機嫌そうにしていた表情を和らげた。しかし、香穂子の隣にいる月森に気づくと先ほどよりもさらに不機嫌な表情になってしまう。
一方の月森も、せっかく香穂子と二人きりなところを邪魔された(声をかけたのは香穂子なのだが・・・)うえに、自分を見てあからさまにいやな顔をされ気分を害したのか、面白くないといった表情で土浦をにらんでいる。
そんな二人の間の張り詰めた空気にまったくきづかない香穂子は、いつものように土浦へ話しかけた。
「土浦君も今日は練習室使うの?」
「そのつもりだったんだが・・・どうやらふさがってるみたいだな。急に部活が休みになって、それだったらって使うことにしたから予約をしてなかったんだ」
土浦は、「ま、しかたないな・・・」と言いながら苦笑している。
同じ普通科でも、毎日のように月森と一緒に練習して練習室を使っている香穂子と違い、コンクール終了後サッカー部に復帰した土浦は普段は部活がある為、コンクール期間中と違い練習室を使うことはあまりない。
部活のない日に使う場合はあらかじめ予約を入れておくことも出来るが、今回は急遽休みになった為予約が間に合わなかったようだ。
「それじゃ、練習できないね・・」
「別にここでなきゃ弾けない訳じゃないし・・・家に帰って練習すればいいだけだから」
「あ、じゃあ私たちと一緒に使う?練習室予約してあるしっ!」
「「はっ!?」」
香穂子の口から出た言葉に、月森と土浦が揃って声をあげる。
よりによって、犬猿の仲な自分達がそろって「仲良く練習♪」など出来るはずもない。いつものように言い合いになるのは目に見えているだろうに・・・
(いつも言い合う俺たちの間でオロオロしてるってのに・・)
言い合っている自分と月森の間に挟まれ、止めようとオロオロしている香穂子の様子を思い出し、内心苦笑する土浦。
土浦としては、香穂子と一緒に練習するのはやぶさかではない。なにしろ月森と同じように、土浦も香穂子に想いを寄せているのだから。
音楽性や性格の不一致からもともと顔をあわせれば言い合いになっていた月森と土浦だが、それに加えてそろって香穂子が好きだと分かってからはお互いに牽制しあって、ますます衝突することが多くなったのだ。
結果として香穂子に選ばれたのは月森ではあるが、土浦としては香穂子をあきらめるつもりはまったくない。「いずれは香穂の気持ちをこちらへ向けてみせるっ!」と密かに決意しているのだ。
とはいえ、ほぼ密室な状態の練習室の中、目の前で二人にいいムードをかもし出されでもしたら精神的ダメージが大き過ぎる。
思わずそんなシーンを想像してしまいクラクラする頭を抑えつつ、香穂子の考えを変えようと土浦が口を開いた。
「別に、そこまでして練習室で練習しないとってわけじゃねーし・・・気にすんなって」
「でも、せっかくここまできたんでしょ?それに、人数いた方が合奏とかもできるし練習も楽しいと思うよ?ね?」
上目遣いに見つめられ、うっ・・・と土浦が言葉に詰まる。
香穂子にそんな顔で言われてしまったら、土浦に断れるはずもない。それに、香穂子のそばにいられるせっかくの機会・・・ひょっとしたら香穂子の気持ちを振り向かせられるチャンスが訪れるかもしれないのだ。
二人がいい雰囲気になりそうになったら何が何でも邪魔すればいいわけだし、ここは香穂子の申し出をありがたく受けたほうがいいだろう。
「まぁ、そこまでいうならありがたく一緒に使わせてもらうが・・・月森はイヤなんじゃないのか?」
最後の部分に若干・・・いや、かなりの嫌味を込めた口調で言いながら、土浦は香穂子の隣で不機嫌そうにしている月森へ視線を移す。
香穂子も、自分で勝手に話を進めていることに気づき慌てて月森の方へ顔をむけた。
「あ・・・ごめんね月森君、勝手に話進めちゃって。えっと・・月森君は、三人で練習するのイヤ・・かな?」
不機嫌そうな月森に、香穂子が恐る恐ると言った感じで尋ねる。
正直に言ってしまえば、せっかく香穂子と二人きりになれるはずだったのにそこへ土浦が割り込んでくるのは、月森としては願い下げだ。もともと、同じ普通科同士な事もあり土浦は香穂子とずいぶんと親しくしている。加えて土浦が香穂子の事を好きだと知っているから、尚更香穂子に土浦を近づかせたくない・・・というのが本音といったところだ。
しかし、土浦同様に月森も香穂子の申し出を断れるはずもなく──
「いや・・・香穂子がそれでいいなら、俺は構わない」
香穂子へ向ける表情を若干和らげ、月森は不本意ながらもそう答えた。香穂子の手前、しぶしぶ承知したというのは表に出さないようにしているものの、心の中で大きくため息をついてしまう。
「よかった。じゃあ、早速練習室に行こうよ!」
月森が承諾してくれて安心したのか、ほっとしたような表情になった香穂子は、二人を促すようにして練習室へ向かって歩き始めた。
「・・・・ホントは『邪魔するな』って言いたいとこなんだろ?悪かったなぁ、邪魔してさ」
香穂子の後を追って歩きながら、土浦は「してやったり」といった表情で、隣を歩く月森にそんな皮肉交じりな言葉を投げかけた。前を歩く香穂子からは見えないので気にしなくてもいいからか、その言葉に今度は不快感をあらわにする月森。
考え込むようにして少し黙っていたが、不機嫌な表情を引っ込めると普段のような冷静な口調でこう切り返す。
「別に・・・君が一緒に来ても来なくても、何か変わるわけでもないから気にしてないだけだ。それに──」
そこで一度言葉を区切ると、月森は不意に歩みを止めた。つられる形で、土浦もその場に立ち止まる。
立ち止まった土浦の方へ視線を向けた月森は、自信たっぷりの不敵な笑み──土浦にしてみれば「イヤミな事この上ない」笑み──を浮かべ、こう続けた。
「『俺の』香穂子はやさしいから、『友達』が困ってるのを放っておけなかったんだろう。そんな香穂子の気持ちを、無下にはできないからな」
『俺の』と『友だち』という部分に思い切り力を込めてそう言うと、何事もなかったかのように月森は再びスタスタと歩き始める。
月森の、まさに逆襲の一撃とも言うべき一言に、土浦は石化したようにその場に立ち尽くした。
思考がストップしてしまったかのように呆然と月森の後姿を見送っていた土浦だったが、ハッと我に返り言われた言葉の意味を理解すると、怒りに思わず拳を握りしめる。
(くっそ〜〜〜!!余裕かましやがって・・・・・こうなったら、絶対に香穂を取り戻してやるからな〜〜!!)
怒りゲージMAX状態で通り過ぎる生徒を怯えさせながら、土浦は決意も新たに二人の後を追って歩き出した。

さて、勇んでのりこんだ土浦だったが、いつも以上にバカップルぶりを見せ付けられ鍵盤を叩く指にいつも以上に力が入る・・・という状況になってしまう。さらに追い討ちのように、香穂子から「土浦君、憂いの表現力が上がった?いつも以上に切ない感じが強いね」といわれてしまい、心の中で涙する土浦であった。


土浦梁太郎、愁情Lv 1アップ(笑)

                                              


<END>



管理人:コルダ創作第一弾!!月森×香穂子いかがだったでしょうか?いや〜、書きあがるまで大変だったわ・・・
土浦 :で・・・なんでここにいるのが俺なんだ?月森の奴を引っ張ってくればよかっただろ(不機嫌そうな顔でにらむ)
管理人:ハリケーンの一番の被害者だから!(ズバッ)
土浦 :・・・・おいっ!!
管理人:まぁ、それは置いておいて・・・(おいっ)
実はこの話、もともとここまでVSモード強くする予定じゃなかったんだよ。
通りすがりのつっちーが巻き込まれて二人のバカップルぶりに当てられる・・・って感じになるはずだったんだけど、
気がついた ら君がつっき ーに対抗意識メラメラ燃やしてたのさ。ほら、私君たち二人のバトル好きだしね。あはは・・・
土浦 :あはは・・・じゃね〜よっ!大体、お前コルダじゃ俺が一番好きなんじゃなかったのか!?
管理人:そうだけど、つっきーも気にいってるし・・・それに、私お気に入りのキャラほどいじめたくなる傾向があるからさ〜
    まぁ、気に入るキャラが大抵いじられやすいキャラだってのもあるけどね。
    ≪ここで、なぜか月森が登場≫
月森 :管理人自身がいじられキャラで、オフでは遊ばれる事が多いからその分創作の中でキャラをいじって遊んでるんだろう・・
    ≪一言だけ残し去っていく月森≫
土浦 :・・・・・・
管理人:やだな〜、つっきーってば・・・愛ゆえにいじめてるに決まってるのに。あははは・・・・(笑いながらさりげなく退場)
土浦 :・・・ちょっとまて!!俺はこれからもずっとこの扱いなのか〜〜!?(叫びながら管理人を追いかける)
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