可愛らしい雑貨やぬいぐるみなどが並ぶ商店街の雑貨屋「メゾン・プラネット」。
その店内で、落ち着かない様子でぬいぐるみの置いてあるスペースの前を行ったり来たりしている一人の少年がいた。
「・・・」
再びぬいぐるみ売り場の前に来た少年――設楽優は、真剣な面持ちでぬいぐるみを見つめている。
(多分、これが『くたたぬき』という物だと思うんだが・・・)
事の発端は、数日前に遡る。
その日、優はいつものように襲ってくる大烏に対する巡回の為、柏木町から尚和町へとやってきていた。
その際、一緒にいたのが優のクラスメイトである柏木好春だった。
好春は、一謡の一員として巡回に加わっている幼なじみの柏木きらを心配して、無理矢理巡回について来ている。
その為、必然的に集合場所である葉光学園へ一緒に向かう形になったのだ。
今回の事件は一謡と九艘共通の問題ではあるが、一謡でも九艘でも無い好春には関係が無い。だから、無関係な彼が巡回に加わるのは正直良くは思っていないのだか仕方がない。
そして、二人で葉光学園へ向かっている途中、好春の足がある店の前で止まった。
「あ。設楽、ちょっと待って」
「何だ?」
いきなり立ち止まった好春に優がいぶかしげに尋ねるが、好春はそれにおかまいなしに店の中へ入っていってしまう。
放っておこうかとも思ったが、そうする訳にもいかないので、優も後について店へと入っていく。
好春が向かったのは、ヌイグルミが積んであるスペースだった。
並んでいるヌイグルミを見渡す好春だったが、どうやら目当てのものはなかったのか「う〜ん・・・やっぱりないか」と残念そうにつぶやいている。
「一体、何を探していたんだ?」
「ん?『くたたぬき』っていうぬいぐるみだよ。売り切れてるみたいだけど」
「・・・お前、ぬいぐるみが欲しいのか?」
「男の癖に」という言葉は飲み込んだものの、そう言いたいことは伝わったのか、好春が頬を膨らませて反論してきた。
「違うよ!欲しがってるのは僕じゃなくてちぃ姉。ぬいぐるみ集めるのが趣味なんだよ」
「あいつが・・・・?」
優の脳裏に、きらの姿が浮かぶ。それと同時に、顔が赤くなるがはっきりわかった。
「あ、アイツは、ぬいぐるみが好きなのか?」
その事を好春に知られたくない優は、誤魔化すように話を振った。
「え?う、うん。ちぃ姉はぬいぐるみ大好きなんだよ。特になんかくたっとしてる感じのか好きみたい」
「そ、そうか・・・」
『柏木きらの好きな物=ぬいぐるみ』と言う公式が優の頭にしっかりインプットされる。
結局、巡回の時間が迫っていたため二人はすぐに店を出る事になったのだが、優の頭には「くたたぬき」と言う言葉が残ったのだった。
そんなやり取りを経て、先日きらに「僕も探しておいてやる」と宣言した優はこうしてくたたぬきのぬいぐるみを探してメゾン・プラネットへとやってきたのだった。
それらしきぬいぐるみは見つかったのだが、この目の前のたぬきのぬいぐるみが「くたたぬき」であっているのかどうかがわからない。
店員に確認すればいいのだろうが、先ほどから向けられている数多の視線に耐えるのに精一杯でそこまでできないでいるのが現状だ。
(くそっ、何で僕がこんな目に・・・もうこれでいいから、早く買ってしまって店を出よう)
いたたまれなくなった優がそう結論を出し目の前のぬいぐるみを手に取ったその時。
「な〜にやってるのかな、す・ぐ・る・ちゃんv」
「うわぁぁぁ!!」
それはそれは楽しげな響きの聞きなれた声が背後から耳に飛び込んできて、優はぬいぐるみを手にしたまま声を上げて背後を振り返った。そこに立っていたのは──
「・・・・・お前、そんな幽霊にでもあったような声出すなよ。店の中だぞ」
自分が驚かせたことを棚に上げ呆れ顔でそういってきたのは、同じ一謡の仲間であり数少ないハンター仲間でもある片瀬哲生だった。
「か、片瀬・・・・お前、何でここに・・・」
「いや〜、巡回でこの辺うろついてたらお前がこの店に入っていくのが見えたからさ。何やってんのかな〜って思って外から見てたんだよ。そしたら、何か真剣な顔して選んでるから、何を買うつもりなのか気になってついつい入ってきちゃったんだな〜、これが」
「ずっ・・・ずっと見てたのか!?」
哲生の口から出た言葉に、優の顔が真っ赤になる。よりによって、一番見られたくない奴に見られてしまったなんて。
愕然とする優にお構いなしに、哲生は優の手にしたぬいぐるみへ視線を向けた。
「お前、そのぬいぐるみを買うのか?ぬいぐるみが欲しいなんて、まだまだお子様だったんだなぁ〜」
「違うっ!!これはあいつへ渡すために──っ!!」
(しまった!)
思わず口にしてから慌てて口元を押さえたが時すでに遅し。
「あいつ・・・ねぇ?ほうほう、あのはねっかえりの姉ちゃんにやるつもりな訳か」
ニヤリと笑みを浮かべた哲生がからかう様な口調で言ってくる。
「ち、ちがっ・・・・僕は別にあいつの事なんて、何ともっ・・・」
「・・・・優、別に俺はそこまで言ってないぞ」
「〜〜〜っ!!」
墓穴を掘りまくる優に、哲生は堪えきれずに思い切り笑いだす。
哲生の笑いがようやくおさまった頃には、優はすっかり不機嫌な顔になって哲生をにらみつけていた。
「片瀬・・・・お前は笑いすぎだっ・・・・」
「いやぁ〜悪い悪い。というか、お前もとうとう女に贈り物なんてするようになったんだなぁ〜・・・・水季が聞いたら、びっくりすんだろうな」
「ん?水季様がなんだって?」
「い〜や、何にも。で、そのたぬき買っていくんだろ?」
水季の名前に敏感に反応した優の言葉をさらっと流し、哲生が上手く話題をすりかえる。
「そのつもりだが・・・ただ、これがあいつの欲しがっている「くたたぬき」というものなのかがわからないから困ってるんだ」
「そんなの、店員にきけばいいじゃねーか」
「それができれば──」
苦労はしない、といいかけた優の言葉を遮り、哲生は近くにいた店員へ「お〜い、そこの店員の姉ちゃん」と声をかけ呼び寄せた。
とっさに言葉が出ず唖然としている優に構うことなく、哲生はやってきた店員へと話し始める。
「なぁ、このたぬきって「くたたぬき」ってやつであってるのか?」
「はい、確かにこのぬいぐるみはくたたぬきですよ」
「そっか。・・・くたたぬきであってるってよ、優。買ってくんだろ?」
「あ、ああ・・・」
とりあえず目的の物であっているとわかり、素直にうなずく優。
「じゃあ姉ちゃん。このたぬき、ラッピング頼むわ。女が喜びそうな感じでよろしくな。何しろこのちびっ子、はじめて女にプレゼントするから気合入ってるんで」
「変なことを言うなっ!!と言うか、お前が勝手に話を進めるな〜っ!」
本人を無視して話を進める哲生に怒った優の怒鳴り声が、店に響き渡った──
その後、怒りながらも「くたたぬき」を手に入れた優は無事にきらへと手渡す事が出来た。
本当にうれしそうな笑顔でお礼を言ってくるきらに、顔を赤らめる優。
そして──
「お〜お〜、青春だねぇ〜♪」
「折角あんなに喜んでくれているんだから、何か気の利いた言葉をかけてやればいいのに」
「愁一様のように女性と見れば甘い言葉をかける方と違い、優は女性に免疫がありませんからね」
「・・・・圭、お前主に対して容赦ないな」
「愁一様は甘い顔をするとつけあがりますから。厳しいくらいがいいんです」
「優・・・・立派になりましたね」
哲生と、哲生から話を聞いた愁一・圭・涼の一謡メンバーが、物陰からその様子を暖かく(?)見守っていたのだった。
──後日談
「そうですか・・・・優がきらさんに贈物を」
布団の上に起き上がり哲生の話を聞いていた水季は、話の内容に顔をほころばせた。
「まぁ、これまでの環境がガラッ変わって郷の外の世界と関わるようになったからな。あいつ自身にも変化があるんだろ」
「うれしいことですね。あの子は今まで一族のしがらみに囚われ、郷の外の広い世界を知りませんでしたから・・・そうやって世界が広がっていくのはあの子にとって良い事です」
「ま、ようやく年相応のガキらしさが出てきたって事か」
2年前の事件、そしてそれまでの優の置かれたていた環境を考えると、今の優の様子は2人にとっても感慨深いのだろう。
「それにしても・・・・私には会う資格はないと分かっていますが、そんな生き生きとした優の姿を、ぜひ見てみたいものですね・・・・」
「水季・・・・」
「それに、優を最後に見た時はまだ中学生でしたから・・・・高校生になってきっと成長して大きくなったんでしょうね」
「いや、大して大きくなってねぇから・・・」
まるで、離れて暮らす我が子の成長に想いを馳せているような水季に哲生が突っ込みを入れるが、成長した優の姿を思い描く水季には聞こえていないようだった──
管理人:初の水の旋律創作いかがでしたか?
優 :片瀬のやつ・・・・よりによって愁一や明月に見られるなんて。と言うか、なぜ涼先生まで。
管理人:みんな君の事が心配なんだよvv愛されてるね〜
優 :気持ち悪いこと言うな・・・・
管理人:まぁまぁ、いいじゃない温かく見守ってくれてるんだから。それともきらちゃんとの仲邪魔された方がいい?涼先生あたりに。
優 :そ・・・それは・・・・困る。
管理人:ま、人の好意は素直に受け取りなさいってvv
優 :・・・・(荒神の太刀があればすぐにでも叩き斬ってやるのに・・・いや、水断刀は九艘しか斬れないから無理だが)
管理人:・・・な、なにやら不穏な空気が流れ出したので、これにておしまい!!(脱兎)
優 :逃げたか・・・
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