渡る世間は敵ばかり?
「ふぅ・・・」
陽だまり邸の自室で机に向かいながら、レインは大きな溜め息をついた。
(財団の手がアンジェに伸びる前に、何とか他の方法を探さないと・・・)
レインが調べているのは、彼が解読したアルカディアの創世記の歴史が―女王の行った時空移動について書かれた古文書だ。
もしかしたら、時空移動以外の世界を救う方法のヒントになる何かが隠されていないかと再度調べ直していたのだ。しかし、それらしいものは見つからない。
アンジェリークを守る為に、解読した内容をアンジェリーク以外には話さなかったのに・・・まさかヨルゴが解読に乗り出すなんて予想外だった。
とりあえず、ニクス達にも話をしてアンジェリークを財団に渡さないために協力してもらっているし、大丈夫だとは思うけれど。
「これなら、俺の浄化能力に目をつけられてた方がまだよかったぜ」
そう呟いて再び溜め息をつくと、レインは自分の左手にはめられた指輪へ視線を落とした。
アンジェリークと一緒に見つけた、一対のアーティファクトの指輪。
自分の指にはめられた指輪の対は、アンジェリークがはめている。自分と同じ―左手の薬指に。
互いにはめていれば緑に、どちらかがはずせば赤に石の色が変わるその指輪を、レインはお守りがわりにとアンジェリークに渡していた。何かあったら、指輪をはずす事ですぐにわかるから。もちろん、何事も無ければいいにこしたことはないのだが。
(アンジェを守る為にも、時空移動以外の世界を救う方法をなんとしても俺が探し出してやる)
そう強く決意すると、レインはもう一度指輪を見つめる。ふと、アンジェリークに指輪を渡したときの事を思い出した。
試しにはめてくれと渡した指輪をアンジェリークが左手の薬指にはめようとしたとき、咄嗟にそれを止めて自分がはめたのだ。「左手の薬指に指輪をはめるのは、お前の役目じゃないだろう」なんて、今思うとかなり恥ずかしい台詞だったかもしれない。
あの時は思わず口にしてしまったし、アンジェリークの指に指輪をはめるとき緊張して震えていた位で気付かなかったが。
(なんか、今頃恥ずかしくなってきたぞ・・・)
彼女に指輪をはめた時の事を思い出し、レインの顔が微かに赤くなったその時。
「レイン、入ってもいいかしら?」
ドアをノックする音と共に、アンジェリークが声をかけてきた。
今まさに彼女の事を考えていたので、タイミングよく声をかけられ思わず動揺してしまう。
(タイミング良すぎだアンジェ・・)
思わず心の中で呟くが、それを表には出さないよう、いつもの調子で「どうぞ」と返事を返す。
ドアが開き、アンジェリークが顔を覗かせた。
「ちょっとお話したいなって思ったんだけど・・・大丈夫?」
「ああ。そんな所に立ってないで中に入れよ」
レインの言葉に頷くと、アンジェリークは部屋の中へ入ってくる。
「もしかして、研究の途中だったの?邪魔をしてしまったかしら・・・」
「別に、一息いれるつもりだったしちょうどよかったよ」
そういうと、レインは椅子から立ち上がりアンジェリークの側に移動した。
「よかった。けど、研究熱心なのはいいけれど、無理はしないでね。また夜更かししているみたいだから」
「それじゃ、無理しないように夜食持って様子見にきてくれよ。もちろん、アップルパイ付きでな」
「もう、レインたら・・・」
レインの軽口に、アンジェリークがクスクスと笑う
「俺は、夜型の生活には慣れているし、大丈夫だよ。それよりも、今はお前の方が心配だからな」
「レイン・・・」
「財団はお前に狙いを定めてる。きっと、近いうちに事を起こすに違いない。だから・・・」
そこまで言うと、レインはそっとアンジェリークの左手をとり自分の方へ引き寄せた。
「この前の約束・・・何かあったら必ずこの指輪で知らせるんだぞ。必ず助けるから。早まった真似もしないでくれ」
真剣な面持ちで、念を押すようにあの時の「約束」を繰り返すレイン。
指輪を渡した時、アンジェリークは「早まった真似はしない」と約束してくれた。しかし、責任感の強い彼女が自分を犠牲にする道を選ばないとも限らないのだ。
その不安が伝わったのか、アンジェリークはコクンと頷きハッキリとこう答えた。
「ええ。何かあったら必ずこの指輪でレインに知らせるわ。それに、レインを信じて最後まであきらめない。決して早まった真似はしないって約束するから」
「アンジェ・・・」
微笑を浮かべるアンジェリークに、レインがホッとしたような表情になる。
「けど・・・私の事だけじゃなくてレインも気を付けてね。レインに何かあった時も必ず知らせて。レインが財団の人達から狙われる危険が、完全になくなった訳ではないんでしょう?」
表情を曇らせ、不安の混じった声て付け加えるアンジェリーク。
以前、財団の職員がレインを研究材料にするため財団へ連れていこうとした事を不安に思っているのだろう。
「安心しろ。前だって軽くあしらってやっただろう?まぁ、もし何かあったら指輪で知らせるよ・・・それも、お前と約束したからな」
安心させるようにそう言って、レインは自信たっぷりな笑みを浮かべる。
「しかし・・・なんだか、互いに相手の心配してばかりだな、俺達」
「そうね。でも、本当に心配なんだもの。もしレインに何かあったら、私・・・」
不安そうな表情で自分を見上げるアンジェリークに、レインの中で愛しさが込みあげてくる。
こんなにも、彼女は自分を想ってくれている。それがすごく嬉しくて、彼女をとても愛しいと思う。
レインは、握っていたアンジェリークの左手を引いて彼女の体を引き寄せると、その華奢な体をギュッと抱き締めた。
「レイ・・ン?」
「大丈夫だ。俺はお前の前からいなくなったりしないから・・・ずっとお前の側にいる」
耳元で囁くように告げられた言葉に、抱き締められたままのアンジェリークがコクンと頷く。
抱き締める力を緩めると、レインは右手をアンジェリークの頬へ伸ばしそっと触れた。
ピクッと体を震わせアンジェリークが顔を上げ、二人の視線が重なる。
頬を朱色に染めたアンジェリークへ、レインが顔を近付けていく。
アンジェリークがゆっくりと目を閉じ、二人の唇が重ねられようとしたその時――
「レイン〜、いるかい?」
「「―っ!」」
ノックの音と共に聞こえてきたジェイドの声に、二人はビクッとその場に固まった。
「あ、ああ。いるぜ・・・」
アンジェリークを離しながら平静を装って返事をするレインだが、先ほどとは違い動揺が丸分かりな声になってしまう。
しかし、部屋に入ってきたジェイドはその様子に気付かなかったようで、気にする事なく話を続ける。
「あ、アンジェリークもいたんだね。ちょうどよかったよ。ニクスがお茶にしようって。二人共サルーンに来てくれるかい?」
「わ、わかりました・・」
いつもと変わらないホンワカ笑顔なジェイドに、アンジェリークがまだ顔を赤くしたまま答える。
「・・アンジェリーク、どうかしたのかい?なんだか顔が赤いけど・・・」
「な、なんでもありません!えっと・・私先に行ってニクスさんを手伝ってきますね」
堪えきれず、アンジェリークは半ば逃げるように部屋を出ていった。
「・・どうしたんだろう。レイン、何かあったのか――いっ!?」
状況がつかめずキョトンとしたジェイドがレインに尋ねた時、レインはいきなり問答無用でジェイドの後頭部をポカリと殴りつけた。
「ひどいよレイン。なんでいきなり殴るんだい?」
「うるさい。一発で済んだだけ有りがたく思え」
冷たく一言そういうと、レインは一人部屋を出ていってしまう。
部屋には、ポカンとしたジェイドだけが残された。


お茶の支度をしていたニクスとヒュウガは、アンジェリークがパタパタと入ってきた事に気付き、そちらへと視線を向けた。
「ああ、アンジェリーク。どうぞ座ってください。今支度をしていますから」
「レインとジェイドは一緒ではないのか?」
「あ、後から降りてくると思います・・あ、支度手伝いますね」
そう言ってお茶の支度を手伝い始めるアンジェリーク。しかし、まださっきの事が頭にあるのか、少し落ち着かない。
「・・・アンジェリーク。何かあったのか?少し様子がおかしいようだが・・・」
アンジェリークの様子がおかしい事に気が付いたヒュウガが、心配そうに尋ねてきた。
「いえっ・・・別になにもありませんよ。えっと・・お茶、私が入れますね」
「・・・そうか」
アンジェリークの態度は明らかに何かあったと感じるものだったが、ヒュウガはそれ以上聞こうとはしなかった。
アンジェリークの様子から、深刻な事ではないと感じたようだ。
一方、そんなアンジェリークの様子を見たニクスは、くすっと笑みを漏らした。
(やはり、レイン君の部屋にいたようですね。ジェイドに、先にレイン君を呼びにいかせて正解でした)
アンジェリークとレイン――二人の関係に変化があったらしい事は、二人の様子を見ればすぐわかった。
見ていて微笑ましいし、見守ってやりたいとは思うのだが・・・
(すいません、レイン君。まだもうしばらく、彼女を独り占めはさせられないんですよ)
タナトスの脅威がまだ消えていない今、女王の卵であるアンジェリークには、誰か一人のではなくみんなの「天使」でいてもらわなければ。それに――
(恋愛は、障害がある方が想いも強くなるものですからね)


お茶会が始まっても機嫌が悪かったレインだったが、デザートにアンジェリークお手製のアップルパイが出た事で、その機嫌はあっさり直ったという。


管理人   はい!レイアン創作第2弾。いかがでしたでしょうか?
ニクス   おやおや・・・これではまるで、私が二人を邪魔する悪者のようですね。
管理人   いや、悪者っていうか〜・・・一番こういうのに適任だったんで〜あははは
(苦笑)
ニクス   別に、怒っているわけではありませんから、お気になさらないでください
(にっこり)
管理人   ・・・・(恐いっ!その笑顔が恐いですニクスさんっ・・・)
ニクス   おや?どうかしましたか?
管理人   いいえっ!べ、別に・・・では、無事ラストでレインへの前回のお詫びも済
んだ事ですし、今回はこの辺で・・・・
ニクス   ああ、前回のお詫びはここでしていたんですね。なんだか、レイン君が上手
      くごまかされてる気がしますけど。
管理人   あはははは・・・・
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送