王子様の憂鬱


「はね学のプリンス」こと佐伯瑛。彼を追いかけて羽ヶ崎学園へやってきた女子も多いという学園のアイドル的存在の彼は、最近頭を悩ませていることがあった。それは・・・・
(どうしてアイツはあんなに無防備なんだよ!)
他ならぬ、彼の想い人であるの事だった。
外部入学者ながら、持ち前のパワフルさと、子供っぽい気の強さはあるものの誰とでも仲良くなれる懐っこい性格ですぐさままわりに馴染んでいった。
それほどぱっとしなかった成績も現在はかなり上がり、陸上部員としても活躍している。
小柄で童顔な容姿は性格と相まってもっぱら「可愛い」と評判だ。
そんな事で、3年生になった現在、は校内でもかなり注目されていて、彼女に想いを寄せる者も少なくなかった。
その筆頭である瑛にとっては、誇らしいようで、少し面白くないというかなり複雑な心境なのだ。
人気者の彼女だから、隙をついて誰に持っていかれてしまうかわかったもんじゃない。
正式に彼氏彼女な間柄ではないので、誰がに言い寄ろうと瑛に邪魔する権利はないのだが、そんなことはすっかり棚に上げて子供のように独占欲丸出しになってしまう。
かっこ悪いとは思っているのだが、こればかりは仕方がない。
何しろ、瑛にとっては幼い頃の自分が見つけた大事な人魚なのだ。まぁ、本人が忘れてしまっているようだが・・・
(いや、俺はに唯一名前呼び捨てで呼ばれてるし!!きっと特別・・・なはずだ!!)
「佐伯君」呼びから「瑛君」、そして「瑛」と変わった自分の呼び名を拠りどころに、そんな風に自分に言い聞かせる。
そんな複雑な思いを抱きながら、昼休みにを探していた瑛だったが、その目に彼をますます不機嫌にさせる光景が飛び込んできた。
廊下で、と針谷が楽しそうに話していたのだ。
(まったく、どいつもこいつも・・・・)
「あ、瑛!」
「おう、佐伯か」
内心嫉妬の嵐が渦巻く(しかし、必死に顔には出していない)瑛に気がついた2人が、声をかけてくる。
「ひょっとして、に用事か?」
「ああ・・・・」
「ふ〜ん・・・んじゃあ、俺行くわ。またな」
「じゃあね、ハリー」
軽く手を振ってその場を去る針谷に、がニコニコと手を振り返す。それが瑛には面白くない。
「で、瑛の用事ってなに?」
そんな瑛の気持ちに全く気がつかないは、隣でやきもきしている瑛へ聞いてきた。
その言葉で、瑛は自分がを探していた目的を思い出す。
「ああ・・・おまえ、今度の日曜日空いてるか?」
「日曜?特に用事ないけど」
「じゃあさ、遊園地行かないか?チケットもらったんだ」
「うん!いくいく!!やった〜」
二つ返事で承諾してくれたに、瑛も心の中でガッツポーズを作る。
(とりあえず、今度の日曜は確保したぞ!!)
実は、他の男が近づかないようにこうして暇さえあればデートに誘っているのだ。意外にまめな男、佐伯瑛であった。
「あ、そうだ。じゃあさ、約束ついでに今日一緒に帰らない?お店開けるまでに帰れれば大丈夫だよね。私はバイトの日じゃないけど、瑛に合わせるし」
「あ〜・・・今日はだめだ。店のもの買出しに行かなきゃいけないんだよ。急ぎの物とかあるから、開店前に急いで買って帰らないとまずいんだ。」
の誘いの言葉に、瑛は心底残念といった表情で答えた。折角のからの誘いだったが、こればかりは仕方がない。
「そっか・・・残念だな〜」
(いや、たぶん俺の方がおまえ以上に残念って思ってますから)
同じく残念そうな表情のに、心の中でこっそり突っ込む瑛。
急ぎでなかったら、いや、むしろが珊瑚礁でバイトする日ならいっそも連れていって「買い物デート」が出来たというのに。(なにしろ、そのまま二人で珊瑚礁へ向かえばいい訳だから)
しかし、一緒に帰れないだけならまだしも、このままだと人懐っこいの事だから、他の誰かと帰りかねない。
女友達となら構わないが、男友達とだったりしたら・・・
(それだけは絶対にやだっ!)
子供じみた独占欲と理解しつつ、瑛は最悪の事態を避けるべくある策をねった。
「・・・、おまえ今日は一人で帰れ」
「へ?」
唐突な瑛の言葉に、がキョトンとした顔になる。
瑛の策は、「他の奴と帰らないよう言いきかせる」と言うシンプルな物だった。
「何で?どうして他の人と帰ったらいけないの?」
「そ、それは・・・おまえは今日俺と帰るつもりでいたんたろ?なら、俺が一緒に帰れなかったとしても、俺と帰ってるつもりで他の奴とは帰らないのが筋だ」
かなり無茶苦茶な理屈なのは重々承知だが、とにかくを納得させようと必死の瑛。
しかし、案の定子供じみたその理屈に、は呆れ顔だ。
「瑛〜・・・それ、かなり無茶苦茶な理屈なんだけど」
「う、うるさい!とにかく、おまえは一人で帰れ。守らなかったらチョップな。・・・分かった返事は?」
「・・・は〜い・・・」
子供のような瑛に、は仕方ないなぁと言うように苦笑を浮かべ瑛の言葉を承諾する。
「あ〜あ、我が侭な王子様の言う事を聞くのも大変だよね」
「・・・ほう、どうしても俺流チョップを喰らいたいようだな、おまえは」
「えっ?ちょっと待った・・・・っ」
「問答無用」
が慌てて避けようとする先に、瑛のチョップがポカリとの頭に決まった。
「うう・・・避けれなかった」
「まだまだ甘い。って言うか、一言余計なんだよおまえは・・・・お父さんはそんな捻くれた子に育てた覚えはないぞ」
「お父さんって・・・っていうか、瑛に捻くれてる言われたくないなぁ・・・」
「なんだと・・・?」
懲りずに余計な一言を吐くに瑛が再度チョップ制裁を加えようとしたその時、タイミングよく午後の授業の予鈴が鳴り響いた。
「あ、そろそろ教室戻らないとね。って、私次の時間移動教室だっ!」
「じゃあ、早く戻った方がいいぞ」
「うん。じゃあ、またねっ!」
ブンブンと元気に手を振りながら教室へ向かって駆け出すを見送り、瑛も教室へ戻るためその場を後にした・・・・


その日の放課後──
(ああ、もう!何でこういう時に限ってしつこいかな・・・)
昇降口へ早歩きで向かいながら、心の中で文句を言う瑛。
早く帰らなければいけないところを取り巻きの女子達に運悪く捕まってしまい、何とかあしらって抜けてきたのだ。
焦っているのを表に出さないよう意識しつつ昇降口へたどり着いた瑛は、ちょうど靴を履き替えようとしているを見つけ、足を止めた。
(あいつも今帰りか・・・)
早く帰るつもりだったから誘いを断ったが、取り巻きに捕まって遅くなった為に時間が重なったようだ。
(そうだ、せっかくだからせめて途中まででも一緒に・・・)
そう思い、瑛がへ声をかけようとするより先に、小柄な人影が瑛より先にの隣へ駆け寄った。
先輩、いま帰り?」
「あ、天地君。うん、今帰るとこだよ」
に声をかけてきた人物――天地に、が笑顔で答える。
(天地〜、おまえもかぁ〜!)
新たなライバル(?)出現に、瑛は再び嫉妬モード発動。
しかし、ここはぐっと堪え、下駄箱の影から様子を伺う事にする。
「ねえねえ!一緒に帰ろ!」
「え?うん、いい・・・あ!ええっと・・・ごめんね、今日はちょと用事があって」
天地の誘いを承諾しかけただったが、瑛との約束を思い出したのか申し訳なさそうに断った。
(よし、よく言った!!)
の発した言葉に、瑛は心の中で拍手喝采だ。
「ふ〜ん・・・じゃあいいや」
「ごめんね。また今度ケーキ食べに行こう」
「うん、じゃあね」
(早く行けっ!ってか、最後の一言余計だから。何だよ「また今度」って!前にもケーキ食べにいったのか!?)
止める権利が無いのはわかっているがかなりおもしろくなくて、思わず昇降口をでていく天地の背中を睨みつけてしまいそうになった。
しかしそこは、が自分との約束を忘れないでいたので良しとしてぐっと堪える。
そのまま下駄箱から靴を出そうとしただったが、忘れ物を思い出したらしく、
「あっ!英語の教科書、課題でてたのに忘れてた!」
と叫ぶと、パタパタと教室へと戻っていった。
「・・・慌しい奴・・ってか、何で隠れてるんだ?俺・・・」
思わず隠れた下駄箱の陰からを見送りながら、ポツリと呟く瑛。結局、に声をかけそびれてしまった。
(まぁ・・・はちゃんと言いつけを守ってたわけだしな。天地よりは俺の方があいつの中で比重は上って事だもんな)
そう思うと、嬉しくて自然に口元が緩んでしまう。
「・・・って、ヤベッ!急がないと本気で時間無いかも!!」
ふと腕時計を見た瑛は、予定より大分時間が過ぎていることに気がつき大急ぎで靴を履き替え学校を後にするのだった。


さん」
「あ、若王子先生」
忘れ物を取って、再び昇降口へ向かっていたは、廊下で担任である若王子に呼び止められた。
「今帰りですか?」
「はい。先生はまだお仕事ですか?」
「ええ、明日の授業の準備がありますから。・・・・そうだ、さん今日は急いで帰らないとマズイですか?」
「へ?いえ、特に急いでませんけど・・・」
突然の質問を不思議に思いつつ答えるに、若王子が嬉しそうな表情になる。
「それは良かった。明日の授業で使うプリントの準備、先生一人だととても時間がかかりそうなんですよ。それで、お手伝いしてくれる人を絶賛募集中なんですが・・・」
「つまり、先生の手伝いをして欲しい・・・・と」
「はい」
おなじみのにっこり笑顔で言われてしまうと、どうにも断る気にはなれない。そもそも大して用事もないし、手伝っても支障は無いだろう。
「わかりました、お手伝いします」
「それは助かります。では、化学準備室で作業するので一緒に来てください」
「はい」
コクンと頷くと、は先をいく若王子の後について化学準備室へと向かった。

結局、その作業はかなり時間がかかってしまい、帰りの遅くなったは心配する若王子を断りきれず、彼に送ってもらう事になった。
一方その頃珊瑚礁では──
「いらっしゃいませ。ようこそ珊瑚礁へ」
営業スマイルを浮かべ、いつものように客を案内する瑛。
(・・おや?随分機嫌がいいようだが・・・何かいいことでもあったのかな?)
普段より表情の明るい孫の様子に気づき、総一郎が嬉しそうに目を細めた。学校と店とでかなり無理をしている瑛を内心ではかなり心配しているの総一郎にとって、瑛が嬉しそうにしているのは喜ばしいことだった。
(おそらく・・・あのお嬢さんがらみだろうね。あの子といる時の瑛は、生き生きしているし。ホントに好きなんだね、あのお嬢さんが)
どうやらこの祖父には、孫の恋心はすっかりばれているようだ。
そんな事とは露知らず、普段より笑顔三割増しで接客している瑛だったが、翌日が若王子と帰った事を知ってしまい、ショックを受けることになるのだった。

王子様の憂鬱はまだ続きそうである。


管理人 はい、GS2創作第2弾、いかがだったでしょうか?
瑛   おい、俺は結局またこんな扱いなのか!?
管理人 だって、瑛たんだしねぇ・・・
瑛   「たん」いうな!!ってか、よりによって若王子先生とかよ・・・
管理人 まぁ、君の創作はこれからもこんな感じだと思うよ。
瑛   はぁ・・・
管理人 大丈夫!今のところは君とちゃんの話しか書く気ないから、誰かに取られたりはしないよ。
瑛   ・・・・まぁ・・・それなら・・・いいけど・・・(ちょっと嬉しそう)


                                 


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送