香穂子が再び眠りに落ちてから暫くして…

「ん……」

香穂子を抱きしめて眠ったまま起きる気配のなかった月森が、ゆっくりと目を開けた。

しかし、実は朝がめっぽう弱い月森。

一見すると目を開けて起きているように見えるが、思考が全く働いていないようだ。

ぼーっとした表情のまま、まったく動こうとしない。

しばらくその状態が続いたが、やがて意識がはっきりしてきたようで、月森はようやく自分の腕の中で眠っている人物に気がついた。

「かっ・・香穂子っ!?」

目の前の光景に驚いて起きあがろうとした月森だったが、この状態で自分が動いては香穂子を起こしてしまうと気づき、ピタッと動きをとめる。

とりあえず今の状況を把握しようと、混乱する頭で記憶をたぐりよせた。

「あっ・・・」

脳裏に昨日の記憶が蘇り、月森は顔を赤らめる。

昨日、自分は香穂子と・・・

先程の香穂子と同じように、昨日の行為を思いだし真っ赤になる月森。

心拍数を正常に戻すべく呼吸を整えながら、チラリと腕の中の香穂子へ視線を移す。

元々月森の家に泊まる予定ではなかったので、香穂子はパジャマ代わりに貸した月森のシャツを着ていた。

当然香穂子にはブカブカな為、襟元が大きく空いてしまっている。

そこから見える香穂子の首筋に、昨夜自分がつけた所有の印がはっきりと残っているのが見え、再び動揺してしまう。

・・・とりあえず、再び正常心に戻るべく深呼吸。

一方の香穂子は、そんな月森の葛藤も知らずスヤスヤと眠っている。

穏やかに眠っている香穂子を見ていると、それだけで自然に口元が緩んでしまう。

香穂子がそばにいてくれるだけでこんなにも満たされた気持ちになれる。

自分の中に、こんな気持ちが生まれるなんて思ってなかった。

誰かに心を奪われ、こんなにも大切に思うようになるなんて・・・

(ずっと、ヴァイオリンの事しか考えていなかったのにな・・・)

物心ついた頃から、ずっと弾き続けていたヴァイオリン。両親のように上手くなりたくて、一生懸命に練習した。一つずつできる事が増えていくのが嬉しくて、練習を苦に思う事もなかった。けれど、ヴァイオリンを続けるということは同時に、常に両親と比較され続けるという事で。

どれだけ努力しても、その評価は「親譲りの才能」で片づけられてしまう。

両親や祖父母の事は音楽家としても人としても尊敬しているが、その存在は自分にとって乗り越えなければならない大きな壁であり、自分自身の・・・親を通してではない「月森蓮」としての評価を得ようと必死だった。

それに加え、ひがみや嫉妬からくる嫌がらせを受けたりすることもあり、徐々に他人との間に距離を置くようになっていた。

そんな自分を変えたのは香穂子だ。

自分に対し「音楽一家の月森家の人間」という先入観をもつ音楽科の生徒と違い、香穂子は何の先入観もなく自分に接してきて、きつい言い方にも物怖じせずに反論してくる。ただ反論するだけでなく、きちんと受け入れるべき所は素直に受けとめていた。

そんな香穂子とのやり取りは月森にとって新鮮であり、徐々に彼女と親しくなるにつれて、月森は彼女の音楽に興味を持ち始めた。

そんな時だ。魔法のヴァイオリンの事を知ったのは。

その事を知った時、かなりショックを受けた。そして、「君を演奏家として認めることは出来ない」と厳しい口調で告げたのだ。思えば、彼女の音楽に無意識に惹かれていたのかもしれない。だから余計にそう思ったのだろう。

だが、香穂子は「魔法のヴァイオリン」に頼るだけでなく、自分自身でも懸命に努力をして技術を磨いていった。その努力に比例して、彼女のウ゛ァイオリンは美しい音を響かせるようなる。

そんな香穂子のひた向きな姿を見て、月森は彼女の事を認めたのだ。やがて、彼女の音色だけでなく、彼女自身に惹かれている自分に気が付いた。

その事に始めは戸惑ったりしたが、誰かを大事に想う気持ちは心地よいもので。

そして、その想いをどう言葉にして伝えたらいいか分からないまま迎えた最終セレクション。

月森の耳に届いた「愛の挨拶」が、香穂子と自分の想いを繋いでくれた。

こうして、今彼女と共にあることは、本当に奇跡のように思える。

それを思うと、改めて香穂子を音楽の世界へ導いたリリに対して感謝したい気持ちだ。・・・もう、見ることはできないけれど。

とりあえずは、この幸せな気持ちを抱いたままもう少し眠ることにしよう。

「・・・香穂子。君が、好きだよ」

腕の中で眠るいとしい人へそう呟いて頬へ軽く口付けると、月森は再び目を閉じ心地よい眠りへ落ちていった・・・・

 

 

管理人:え〜、ようやく月森君視点を書き上げましたよ!!長かった・・・・

月森 :待たせすぎだろう。待っていた人がいたかどうかはわからないが・・・

管理人:はぐっ!!す、すいません・・・・けど、君は香穂ちゃんとラブラブなんだから満足でしょ?

月森 :そ、それは・・・そうだが・・・(赤面)

管理人:あ、照れてる。

月森 :・・・・とりあえず、香穂子が待っているから俺は失礼する。(素早く退場)

管理人:あ〜あ・・・逃げられちゃった。


                               
                                 

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